q会社《エイレイテド・ブレド・カンパニイ》――。あめりかの観光客。古着売買のゆだや人とかれの手押車。屋根に荷物置きの小欄干のついた箱みたいなタキシ。「|すっかり盲ら《トウタル・ブラインド》」とか「|かなり盲ら《クワイト・ブラインド》」とかと細かい区別を明表した大きな紙札を首から下げている乞食。労働者の辻演説。慈善花うり娘。相乗りのモウタア・サイクル。道路工事。石炭配達者。深夜の屋台店。宣伝掲示「|英産品を買え《バイ・ブリテシュ・グッズ》」。海外侵略の英雄像と欧洲戦争記念物の林立。歩道画家《ペイヴメント・アウテスト》。広場と芝生――夜門を閉めるのが公園・一晩じゅう明けはなしなのが共有地《コンモン》――陽にやけた植民地の青年。雀。犬。老大木。

   おぺら・ぐらす

 六月二十三日――ロウヤル・アルバアト会館《ホウル》にロウヤル・コウラル協会の「ヒアワサ」を見る。ロングフェロウの詩をコラリッジ・テイラアが抜萃《ばっすい》作曲したのを、フェアベイルンが演出しているのだ。音楽指揮マルコム・サアジェント博士。ヒアワサの結婚祝い、ミネハハの死、ヒアワサの出発の三幕に別れている。一大合唱と群集運動の連続で、室内野外劇とでもいうべきものだ。衣裳と色彩と照明とでちょっと印象的な効果を出す。コウラス八百人、舞踊《バレー》二百人。すり鉢の底のような独特の舞台に約千人の西|印度《インド》扮装者が一時にあらわれる。見物《スペクタクル》といえば見物《スペクタクル》、幼稚といえば幼稚。第三幕の白人のくる場面は全然ないほうがいいと思った。このため喜劇におわっている。廊下では、片っぱしから扮装のままの役者に掴まって挨拶された。ほん物が検査に来たと思ったのだろう。
 六月二十六日――コヴェント・ガアデンのロウヤル・オペラ。だしものは「ファウスト」。ユウジン・グウセンスの指揮。シャリアピンのメフィストフェレス。大礼装の紳士と淑女。私たちも礼装して自動車を乗りつける。それだけ。切符ひとり金二十五円|也《なり》。
 六月二十八日――ロウヤル・ドルウリイ・レイン座。楽劇《レヴュウ》「芝居舟《ショウボウト》」。黒人声楽家と踊子。あめりか南部棉花栽培地方のはなし。わりに退屈。
 六月三十日――皇太子《プリンス・オヴ・ウェイルス》劇場。「現場不在証明」。アガサ・クリスティの「ロジャア・アクロイド卿殺害事件」を舞台
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