泣Kア広場では紳士的な社会主義者が鳩と空気と落葉にむかって対|印度《インド》政策の欠陥を指摘し、とうの昔に日本で封切りされた映画に紳士淑女の礼装がいならび――これを要するにあらゆる感激・突発・殺倒・異常・躍動・偶然を極度に排斥して、ただそこにあるのは、牡蠣《かき》――生死を問わず――の保持する冷静・ホテル支配人の常識・非芸術的な整頓・着実な平凡・十年一日除幕式のように順序立った日常・節度と礼譲・一歩も社交?oない紳士淑女のむれ・権威ある退屈――何世紀かにわたる商業と冒険と植民とが、いまこの海賊の子孫たちに、速度《スピイド》と薬味《スパイス》と火花《スパアクル》の欠けたさくぜん[#「さくぜん」に傍点]たる近代生活を、単に経営のため経営として強いているのを見る。何たる|個人的感情の枯れた《インディファレント》「紳士的現象」であろう! UOGH! なんという無関心な、かなしいまでに実際的過ぎる社会図であろう! 紳士と淑女に「調子はずれ」と「若い愚かさ」と「夢中になる経験」を予期出来ないのは当然だ。が、個性のはっきりしない表情に歴史と領土による尊厳を作為して、あまりにも一糸みだれない毎日を、何らの懐疑も反逆もなしに受け入れている敬愛する英吉利《イギリス》人の道徳律《モラリティ》を呼吸していると、私は正確に、死期を逸した陰険な老猫を聯想する。親切と誇示癖と利用本能。何があっても昂奮する神経を持ちあわさない倫敦《ロンドン》人。その鈍いおちつき、救われないひとりよがり――AH! 私のろんどんは瑕《きず》だらけな緩動映画《スロウ・モウション》の、しかもやり切れない長尺物だ。テンポのおそい荘重なJAZZ――この滑稽な矛盾こそは現代の英吉利だ!――銅版画の古城からきこえてくるエイル・ブルウの舞踏《ステップ》、英文学の古本にこぼれた混合酒《カクテル》のにおい、牛肉と山高帽・牛肉と山高帽。そして、above all ――テムズを撫でる粉炭の風。
いまの倫敦《ロンドン》は、町も人も、人のこころもあまりに横にひろがり過ぎている。絵と詩と、文学と音楽と天才と革命よ、このろんどんを見捨てよ!
街上、よく見かけるもの。
松葉杖。脚部に故障のある人――片足長い、あるいは短い――等。ひげの生えた女。肥った老婆。しるく・はっとと晴天の洋傘《コウモリ》。ブウツの薬屋。ライオン食堂。ABC――炭酸瓦斯麺
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