ワしたが、支那人が歓迎の意味で爆竹を打ちあげたのだと思ったそうです。すると伊藤公が撃《や》られたというんでしょう、さあ大変、みんな滅茶苦茶に飛び出して行って、わいわいごった[#「ごった」に傍点]返しです。露助の兵隊なんか大きな刀《やつ》を振り廻してやたらに、ヤポウネツ・ヤポンツァ! って呶鳴《どな》る――。』
『ちょ、ちょっと待って下さい。』私はあわてる。『その、それは何です――ヤポ・ヤポってのは?』
『|日本人が日本人を《ヤポウネツ・ヤポンツァ》! というんですね。で、わあっ[#「わあっ」に傍点]と押し出したのはいいが、線路へ落ちるやら兵隊に蹴《け》られるやら――そのうちにぎゃっ[#「ぎゃっ」に傍点]! というもの凄い声が聞えましたが、それは人混みのなかで露助の兵隊が安重根《あんじゅうこん》を捕まえたときに、先生夢中で頸部《くび》を締めつけたもんだから、安《あん》のやつ苦しがって悲鳴をあげたんです。私も一生懸命でしたよ。爪立《つまだ》ちして伊藤公の担《かつ》がれて行くのを見ていました――。』
 汽車を降りた私たちは、二十年前に公の狙撃された現場に立った。その地点は、一・二等待合室食堂
前へ 次へ
全64ページ中10ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
谷 譲次 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング