なに聯隊奮戦の地。
連山関《れんざんかん》の郵局。
「赤い夕陽」
ほんとに真赤な、大きな、火事のような入り日だ。
「奉天」
のりかえ。
「長春」
のりかえ。
支那馬車のむれ。
客桟《かくざん》で人を呼ぶ声。深夜。
やすい煙草――大愛国香烟、長寿牌大号、中国出産|中俄煙《ちゅうがえん》公司。
南京豆の皮を吹く砂まじりの風。
水菓子屋の灯《あか》り。
午前十二時十分発。
「哈爾賓《ハルビン》まで」
万国寝台車の一夜。巴里《パリー》に本社のあるワゴンリイのくるまだ。まるで宮殿のよう――と彼女が讃嘆したとおりに、飴いろに金ぴかの装飾が光っている。
中華民国のかたではありませんか、と呼びかけられて、下関で高等係の人からかなり長い質疑応答をやらせられた私達――断っておくが、私はながい外套にへん[#「へん」に傍点]なぐあいに帽子を潰《つぶ》してかぶり、彼女は断髪にしかと花束を抱えていた――も、長春では、旅券をしらべに車室へ来た支那の官憲が、一眼《ひとめ》で日本人と白眼《にら》んだためにそのままに済んだ。――のはいいが、故国の役人には支那人に間違われ、支那人にはすぐに日本人と看
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