褐色の連続を点綴《てんてつ》する立看板の林――大学眼薬、福助|足袋《たび》、稲こき親玉号、なになに石鹸、仁丹、自転車ソクリョク号、つちやたび、風邪には新薬ノムトナオル散、ふたたび稲こきおやだま号、ナイス印万年筆、スメル香油、何とか歯みがき、& whatnot。
「京城」
 降りて行った亜米利加《アメリカ》の女伝導師と、彼女の靴下のやぶれ。
 午後七時四十分。
「安東まで」
 低い丘。雑木林。
 金泉で雨。
 黙々として黒く濡れている貨車。
 停車場の棚に金雀枝《えにしだ》がいっぱい咲いていた――三浪津《さんろうしん》の駅。
 秋風嶺《しゅうふうれい》でも雨。
 見たことのあるような気のする転轍手《てんてつしゅ》の顔。
 鉄道官舎のまえに立っていた日本の女。
 唐傘《からかさ》。雑草。石炭。枕木。
 日の丸。
 小学校。
「安東」
 税関。鉄橋。驟雨。日光。
「奉天まで」
 ゆるいカアキイ色の起伏。
 展望車に絵葉書がおいてある。唐獅子の画に註して曰《いわ》く。「現今民国有識階級ニ於《おい》テハ華国ハ眠レル獅子ナリト言ヒナサレ覚醒又ハ警世ノ意アリテ尤《もっと》モ喜バル」と。
 なに
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