とんど先天的な約束をさえ見出しかけていると、彼女も眠れないとみえて、下の寝台で寝返りを打つのが聞えた。
『どうしたい、まだ降ってるかい?』
『え?』
『雨さ。』
『いいえ。』
『どのへんだろう此処《ここ》――。』
『さあ――静岡あたりでしょう、きっと。』
黒と白だけの風景画
「下関」
むらさき色の闇黒《あんこく》。警戒線。星くず。
無表情な顔をならべて関釜《かんぷ》連絡T丸の船艙へ流れこむ朝鮮人の白衣《びゃくえ》の列。
「釜山」
あさ露に濡れる波止場の板。
赤い円《まる》い禿山。
飴《あめ》と煙草―― e.g. 朝鮮専売局の発売にかかるカイダ・マコウ・ピジョンなど・など・など。
停車場への雑沓。
バナナを頬張りながら口論している色の黒い八字ひげと、金ぶちの色眼鏡。
内地人の薬売り――新植民地情景。
「京城まで」
土塀と白壁。赤土。黒豚。
小川。犬。へんぽんたる洗濯物。
教神――水晶洞所見。
滝頭山《ろうとうざん》神社のお祭り。
勿禁院洞《もっきんいんどう》と読める。
皇恩|浩蕩《こうとう》とも書いてある。
長いきせる[#「きせる」に傍点]と荷馬車
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