フために何を思い何をなしつつあるか」が多く叫ばれてすくなく行われ、都会と農村、工業と農業のあいだに救うべからざる不具の谷が横たわり、物々交換がその「新経済政策」であり、「教育」はみんな階級戦士の養成であり、無産独裁がいつしか共産党独裁となり、これがこんどはスタアリン独裁と自然化し、「共産党員にあらずんば人にあらず」であり、新選組ゲイ・ペイ・ウは人ふるれば人を斬り馬触るれば馬を斬り、あたらしい皮ぶくろに原始的な英雄政治が盛られ、民は知らされずして凭《もた》らせられ、イワンは破れ靴とから[#「から」に傍点]の胃の腑で劇と文学を論じ、よごれた毛糸の襟巻をしたナタアシャが朝風を蹴って東洋美術の講義を聴きに大学へいそぎ、イワンの父親は辻馬車《イズボシク》のうえで青空へ向って欠伸《あくび》をし、ナタアシャの母はそっ[#「そっ」に傍点]と聖像をとり出して狂的な接吻を盗み、物資欠乏の背の重い「友達《タワリシチ》」たちが、うなだれるかわりに理想を白眼《にらん》で昂々然と鋪道を闊歩し、男も女も子供も犬も街上に書物を抱え、私有財産を認めない掏摸《すり》がその本を狙って尾行をつづけ、お寺の金色塔に赤旗がはため
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