ヘただ夕陽と白樺《ビリオザ》と残雪の世界である。丸太小屋に撥《は》ねつるべの井戸、杉《サスナ》も多い。クルツクンナアヤの停車場に、労農政府の政策を絵解きにした宣伝びら[#「びら」に傍点]がかかっていたのを、後部の車にいるレニングラアド大学教授リュウ・ツシゴウル氏が説明してくれる。カマラの駅には汽車と乗客を見物する土民が異様な服装で群れさわいでいた。カリイスカヤのゴブノビンスクだの、へんな名の村々町々を通過する。汽車はときどき立ちどまって、水と燃料の薪を積みこみ、そうして思い出したようにまた遠い残光をさして揺《ゆる》ぎ出すのだ。ある朝「バイカル!」の声にあわてて窓かけを排すると、浪を打ったまま氷結したバイカルが、敷布のように白く陽にかがやいて私たちのまえにあった。それは湖というよりも海だった。ところどころに魚を釣る穴があいて、橇《そり》のあとが無数に光っている。バイカルは一日汽車の窓にあった。タタルスカヤで粉雪ふる。派手な頭巾をかぶった頬の赤い姉妹が手を引いて汽車を見送っていた。ポクレブスカヤから土がめっきり黒くなって、欧羅巴《ヨーロッパ》の近いのを知る。スウェルドロフスクでは、廃帝ニコ
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