キ行案内終り。
 念のための格言。
 かんなん汝を玉にす。

   湖・白樺・雪・雪・雪

 車掌は白髪の老人だったが、何をいっても皆まで聞かずに否《ニヤット》の一言で片づけるのには大いに困った。そのうえアフガニスタン王のために四人乗りの車室しか取れなかったので、途中の駅から入り代り立ちかわり色んな人物が割り込んでくる。これにも弱らせられたが、このほうはどうやら片ことで会話をまじえて、すこしでも彼らの見方や考えているところに触れる機会を持ち、かえって感謝すべきだったかも知れない。はじめは私たちふたりでのうのう[#「のうのう」に傍点]していたのだったが、満洲里《マンチュリー》を出て間もなく、たぶんマツェフスカヤからだったと思うが、真夜中の二時ごろ、臭気ふんぷんたる二人の露西亜《ロシア》兵士が押しこんで来て、長靴をはいた土足のまんま寝台へ這いあがられたのはびっくりした。彼女などはびくびく[#「びくびく」に傍点]もので一晩じゅうまんじりともしなかった。あとで聞くと、このふたりは初め隣室の女ばかりの部屋へ這入《はい》ろうとしたのだそうだ。もちろん女達が悲鳴を揚げて抵抗したので、私たちの部屋へ来
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