ミとりは手風琴を、他はヴァイオリンを鳴らして路傍に物乞いしている。跛足と盲らだ。「無眼之人」と大きく書いたボウル紙を首から下げていた。
ウチャストコワヤ街の方角から、深夜の紅塵にまじって支那少年の叫びがけたたましく流れてくる。
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ちで・ちで!
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夕刊売りだ。
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ちで――い!
ちで――い!
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VIA・さいべりあ
アフガニスタンという国――とにかく国だろうと思うんだが――の王様が、何かの用で――たぶん鬚でも剃《そ》りに――莫斯科《モスコウ》からワルソウのほうへ出かけているために、その宮内大臣、侍従、料理部員等の一大混成旅行団の乗用として、いい車はみんな欧露方面へとられてしまった。万国寝台会社がこういう。どうもへんな話だが、アフガニスタンにしろズズアイランドにしろ、仮にも王さまの御用とあらば致し方ない。で、不平たらたら汽車賃の払戻しを受けて、一等客が全部二等車へ押しこめられ、いよいよ[#「いよいよ」に傍点]長途シベリアの旅へ上る。このいよいよこそはじつに世にも大変な「いよいよ」であった
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