スんぐろえ
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私は上半身を乗り出して真下の歩道を覗《のぞ》いた。巌畳《がんじょう》な支那の中年男が、酸漿《ほおずき》のしぼんだようなものを何本となく藁束《わらたば》に刺したのを肩へ担いで、欠伸《あくび》みたいに大きくゆっくり口を開けるたんびに、円い太い声が、心もち震《ふる》えて長閑《のどか》に吐き出されるのだ。
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あああう――あ!
ちい――やらまた
たあ――んぐろえ
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山※[#「木+査」、第3水準1−85−84]子《さんざし》という木の実である。それを乾して赤く着色したのを、子供の駄菓子として売り歩いているのだが、七、八つ刺した串が一本|大洋《タイヤン》の一銭とかで、終日砂ほこりにさらされて真っ白になっているのを、売れても売れなくても一向平気に、彼は呶鳴《どな》ることそれ自身に生甲斐《いきがい》を感じているらしく、私の眼下でもう一度「ちいやらまた」を叫んだのちぶらり[#「ぶらり」に傍点]と通りすぎていった。山※[#「木+査」、第3水準1−85−84]子の実は甘酸《あまず》っぱい味がして、左程《さほど》まずくもない
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