サうだけれど、その埃《ほこり》だらけなのに怖毛《おじけ》をふるって、私達はとうとう手が出なかった。この山※[#「木+査」、第3水準1−85−84]子売りはハルビン街上風景の一主要人物である。黄塵《こうじん》万丈の風に乗って、泣くようなその売り声が町の角々から漂ってくるとき、人は「哈爾賓《ハルビン》らしさ」の核心に触れる。
三十分おきにどっちかの発議で、私たちはお茶を飲んでいる。露西亜|茶《チャイ》だ。気候のせいかみんなよくこの茶《チャイ》をのむ。個人の家ばかりかどこの事務所でも、時間をきめて洋杯《コップ》になみなみと注《つ》いだのへレモンと砂糖を添えて持ってくるが、身体《からだ》が要求するのだろう、さして美味《おい》しくもないのに、咽喉《のど》がひりひりして飲まずにはいられない。が、お茶だけでも仕様がないから、勇を鼓して階下の食堂へ降りてみると、いたずらに広い卓子《テーブル》のあいだに給仕人の襯衣《シャツ》の胸が白くちらほら[#「ちらほら」に傍点]光って、運命開拓者のあめりか人が赤い耳輪の売春婦と酒を飲んでいるきり、オウケストラのウォルツが寒々しくあふれている。そのうちに、中年の露西
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