hイツ》人ウンテルベルゲル氏が経営して自ら給仕長として立ち、いっぽんの生胡瓜《オグレツ》に大洋《タイヤン》の一円五十銭をとり、定食《アベイト》には、卓上電灯を半暗にして不可思議な舞踏交響楽がはじまり、帳場《デスク》の露西亜番頭《ロシアクラアク》はたくさんの支那語とすこしの英語とすこしの独逸語と少しの仏蘭西《フランス》語と、それにすこしの日本語とを話し、浅黄色のわんぴいす[#「わんぴいす」に傍点]を着て頭髪を角刈りにした不柔順な支那ボウイの一隊と、慈善病院の看護婦みたいな不潔な露西亜《ロシア》女中の大軍とを擁し――以下略――とさえ言えば、いかに「哈爾賓《ハルビン》」な、あまりにハルビンな火太立《ホテル》であるかが充分以上に描出されたことになろう。
 窓|硝子《ガラス》をとおしてまだぼんやりと前の通りを見下ろしていた私は、吹きまくる蒙古風といっしょに奇妙な呼び声が揺れ上ってくるのに気がついた。声は、黄色く暮れてゆく街上をだんだん近づいて来る。
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ちいやらまた
たんぐうろえ
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 また暫《しば》らく間をおいて、
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ちやらまた

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