sハルビン》はやはり根気のいい植物のように、じいっと何かを待って展開している。
グランド・ホテル――格蘭得火太立《グランド・ホテル》旅館という物々しい支那語の看板をかかげたホテルに、私たちは宿をとっているのだ。三階の自室の窓に立つと、大陸の気層は魔術的だ、けさ着いた停車場《ワグザル》の建物をすぐ眼のまえに見せて、鬱金《うこん》木綿の筒っぽのどてら[#「どてら」に傍点]のようなものに尨大な毛の帽子を載《いただ》いた支那人の御者が、車輪から車体から座席、馬にいたるまで土とほこりに汚れきった一頭立ての軽馬車を雑然とかためて、高粱《こうりゃん》の鞭《むち》を鳴らして何か大声に罵りあいながら客待ちしているのが、遠く噪《さわ》がしいだけにうつろに眺められる。ホテルの玄関の両側には、満洲人の果物売りが朝早くからずらり[#「ずらり」に傍点]と歩道に荷をおろして、商売に関係なく暗くなるまで居眠りしている。たまに上海|蜜柑《みかん》の一つも売れようものなら、われながら不審げにきょとん[#「きょとん」に傍点]とするが、すぐに忘れてまた眠り出す。そうして襟《えり》へしみる夕風に急に驚いたように籠を片づけて、
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