人で喫わずに、いいかげんにこっちへも回せよ。」
 B「よし! そんなら賭《か》けをして、勝ったほうがしまいまで喫《の》むことにしよう――ほら、あそこに二人電車を待ってる女がいるだろう? あのなかの茶色の外套を着たほうが先きに電車に乗るか、それとも黒いほうがさきか、ひとつ賭けしようじゃないか――おれは茶色だ!」
 A「するとおれは黒をとるわけだな。」
 そのうちに電車が来て、黒の外套を着た女が素早く乗ってしまうと、遥かむこうの煙草屋のまえでは、一本の煙草が他へ移って、口の焼けるまで心ゆくばかり吸われるというわけ。
 何を決めるにも賭けだが、これはなにもホボにかぎったことはない。あめりか人は、幌馬車時代の冒険心がのこっているものか、天下国家の大事でも、日常の些事《さじ》でも、I'll bet. You bet your life. I'll match you でなくては、気がすまないとみえて――。
 共和党と民主党とどっちから大統領が出るかといっては、社交倶楽部では、百ドル千ドルの賭け。安アパアトメントの裏二階では一ドル二ドル。黒ん坊のボーイ仲間では五セント十セントの賭け。
 あした雨か晴
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