だから世のつねの紳士のごとく、いかに身に粗服をまとうとも靴の先だけは木賃宿の寝布《シーツ》で拭いて光らせている。
 第三。四季を通じて山高帽使用のこと。
 第四。噛みつく犬と噛みつかない犬とを一瞥して見わける技能。
 それも田舎まわりのホボとなると、自然を愛好したり、農繁期に麦をむしったり、裏口から覗いて一食にありついて、その代りに薪《たきぎ》を割ったり、毛布一つで農村労働者に「自覚」と「団結」を促して歩いたり、鶏《とり》を盗んだり山火事を起したり、貨物列車にぶら下って旅行したり、これを要するにたいして悪いことはしないが、それでは都会のホボは何かよくないことをするのかというと、これもべつに害毒を流すというわけではなく、まずせいぜい悪事を働いたところで、通行人からマッチを借り、ついでに煙草を貰い、そしてもし相手が東洋人だったら、ちょっとその機会を利用して人種的軽蔑を示すくらいだ。
 かえって、あめりか都市の添景人物として、なくてはならないのがこのホボ。
 で、ふたりのホボが、街角の煙草屋の前で、往来を見ながら議論している。
 A「おい、ジミイ、煙草はもうそれ一本しかないんだぜ。そんなに一
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