や」に傍点]を掃除しながら、店先いっぱいに古着の下がった間から顔を出す。
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老婆 劉さんかね。もうランプを点《つ》けなさいよ。東夏さんはいないのかえ。
劉任瞻 馬鹿な野郎だ。先刻まだ早いうちに、また独立党の会があるとか言ってな、出かけて行ったきり帰らないのだ。帰って来たらどなりつけてやろうと思って、ここに出張って待っているのさ。
老婆 おや、それじゃあきっと自家《うち》の若い人たちと一緒ですよ。安重根とかいう人が来たと言って、商売をおっぽり出して駈け出して行きましたから。
劉任瞻 困ったものだ。わしはいつも東夏に言って聞かせているのだが、職業や勉強を蔑《ないがしろ》にして何が国家だ。何が社会だ。独立が聞いて呆れる。ちっとやそっとの人間が騒いだところで、世の中はどう変るものでもないのだよ。長い間生きて来て、わしや古着屋のお婆さんが一番よく知っているはずだ。なあ、お婆さん。
老婆 そうですともさ。
劉任瞻 世の中は理窟ではない。いや、たった一つ理窟があるとすれば、それは、強い者が勝ち、弱いものが負けるという理窟だけだ。強い者は
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