黄成鎬夫妻、柳麗玉を残し先を争って戸外へ逃げ去る。憲兵出現と同時に、黄成鎬は逸早く懐中からトランプを取り出して床に撒き散らしている。
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憲兵二 空砲だ。空砲だ。あわてるな。
憲兵三 燈《ひ》を点《つ》けろ、燈を!
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点燈。青年らすべて退散したる明るい舞台に、家具食器など散乱し、格闘の跡。中央に安重根が俯臥して、柳麗玉はひざまずいて労わり、他はあるいは安重根の傍に、あるいは壁ぎわに狼狽して立っている。床一面にトランプが散らばり、裏口に寝巻姿の近所の男女数名が驚いた顔を覗かせている。
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憲兵上官 (黄成鎬へ進んで)貴様か、ここの主人は。何だこの騒ぎは。どうしたんだ。
黄成鎬 はい。まことにどうも申訳ございません。いんちき札を使ったとか使わねえとか、下らねえことから、何分その、気の早え野郎が揃っておりますんで、へえ。
上官 何? 博奕の喧嘩か。
黄成鎬 へへへへ、なに、ちょいと悪戯《わるさ》をしておりましたんで。お手数をかけまして、なんとも早や――
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