で、つい――。同志の方があんなに大騒ぎしている安さんを、あたし、一人占めにしているんだわね。なんだかすまないような気がするわ。
安重根 (自嘲的に)ふん、おれは家族を迎えにハルビンへ行くんだ。
柳麗玉 (わざとらしく)ええ、そうよ。よく解ってますわ。そして、独立党煙秋支部長の安重根――特派活動隊参謀中将の安重根が、すぐ世界の安重根、歴史の安重根になるのね。(感激に耐えかねて)ああ、あたし――あたし、ほんとに幸福だわ。
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安重根は聞いていないように、手早く卓上の行李をあけて、つぎつぎに古着類を取り出す。茶の背広服、同じ色のルバシカ、円い運動帽子など。その動作は急に別人のように活気づいている。
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安重根 (陽気に独語)ハルビンは寒いからな。
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最後に露人の羊皮外套《パルナウルカ》を取り出す。
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安重根 これだ。
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柳麗玉がいそいそと外套を着せる。引きずるように長い。運動帽子をかぶる。考え込んで室内を歩き
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