、心狹き妾に、恥ぢて死ねとの御事か。無情《つれな》かりし妾をこそ憎《にく》め、可惜《あたら》武士《ものゝふ》を世の外にして、樣を變へ給ふことの恨めしくも亦痛はしけれ。茲|開《あ》け給へ、思ひ詰《つ》めし一念、聞き給はずとも言はでは已《や》まじ。喃《のう》瀧口殿、ここ開け給へ、情なきのみが佛者《ぶつしや》かは』。喃々《のう/\》と門《かど》を叩きて、今や開《あ》くると待侘《まちわ》ぶれども、内には寂然として聲なし。やゝありて人の立居《たちゐ》する音の聞ゆるに、嬉《うれ》しやと思ひきや、振鈴の響起りて、りん/\と鳴り渡るに、是れはと駭く横笛が、呼べども叫べども答ふるものは庭の木立のみ。
 月稍々西に傾きて、草葉に置ける露白く、桂川の水音|幽《かすか》に聞えて、秋の夜寒《よさむ》に立つ鳥もなき眞夜中頃《まよなかごろ》、往生院の門下に蟲と共に泣き暮らしたる横笛、哀れや、紅花緑葉の衣裳、涙と露に絞《しぼ》るばかりになりて、濡れし袂に裹《つゝ》みかねたる恨みのかず/\は、そも何處までも浮世ぞや。我れから踏《ふ》める己《おの》が影も、萎《しを》るゝ如く思《おも》ほえて、情《つれ》なき人に較《くら》べ
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