げす》み給はん事もあらば如何にすべき。將《はた》また、千束《ちづか》の文《ふみ》に一言《ひとこと》も返さざりし我が無情を恨み給はん時、いかに應《いら》へすべき、など思ひ惑ひ、恥かしさも催されて、御所《ごしよ》を拔出《ぬけい》でしときの心の雄々《をゝ》しさ、今更《いまさら》怪しまるゝばかりなり。斯くて果《は》つべきに非ざれば、辛《やうや》く我れと我身に思ひ決め、ふと首を擧ぐれば、振鈴の響耳に迫りて、身は何時《いつ》しか庵室の前に立ちぬ。月の光にすかし見れば、半ば頽《くづ》れし門の廂《ひさし》に蟲食《むしば》みたる一面の古額《ふるがく》、文字は危げに往生院と讀まれたり。
 横笛|四邊《あたり》を打ち見やれば、八重葎《やへむぐら》茂《しげ》りて門を閉ぢ、拂はぬ庭に落葉|積《つも》りて、秋風吹きし跡もなし。松の袖垣|隙《すきま》あらはなるに、葉は枯れて蔓《つる》のみ殘れる蔦《つた》生《は》えかゝりて、古き梢の夕嵐《ゆふあらし》、軒もる月の影ならでは訪ふ人もなく荒れ果てたり。檐《のき》は朽ち柱は傾き、誰れ棲みぬらんと見るも物憂《ものう》げなる宿《やど》の態《さま》。扨も世を無常と觀じては斯かる侘
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