』。
僧は最《い》と懇《ねんご》ろに道を教ふれば、横笛|世《よ》に嬉しく思ひ、禮もいそ/\別れ行く後影《うしろかげ》、鄙には見なれぬ緋の袴に、夜目にも輝く五柳の一重《ひとへ》。件の僧は暫したヽずみて訝しげに見送れば、焚きこめし異香《いきやう》、吹き來《く》る風に時ならぬ春を匂はするに、俄に忌《いま》はしげに顏背《かほそむ》けて小走《こばし》りに立ち去りぬ。
第十九
斯くて横笛は教へられしまゝに辿り行けば、月の光に影暗《かげくら》き、杜《もり》の繁みを徹《とほ》して、微《かすか》に燈の光《ひかり》見ゆるは、げに古《ふ》りし庵室と覺しく、隣家とても有らざれば、闃《げき》として死せるが如き夜陰の靜けさに、振鈴《しんれい》の響《ひゞき》さやかに聞ゆるは、若しや尋ぬる其人かと思へば、思ひ設けし事ながら、胸轟きて急ぎし足も思はず緩《ゆる》みぬ。思へば現《うつゝ》とも覺えで此處までは來りしものの、何と言うて世を隔てたる門《かど》を敲《たゝ》かん、我が眞《まこと》の心をば如何なる言葉もて打ち明けん。うら若き女子《をなご》の身にて夜を冒《をか》して來つるをば、蓮葉《はすは》のものと卑下《さ
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