るに似たり。折らば落ちん萩の露、拾《ひろ》はば消えん玉篠《たまざゝ》の、あはれにも亦|婉《あで》やかなる其の姿。見る人|※[#「※」は「りっしんべん+夢」と同義、「夢の夕部分を目に置き換えたもの」、読みは「ぼう」、第4水準2−12−81、7−5」然《ぼうぜん》として醉へるが如く、布衣《ほい》に立烏帽子せる若殿原《わかとのばら》は、あはれ何處《いづこ》の誰《た》が女子《むすめ》ぞ、花薫《はなかほ》り月霞む宵の手枕《たまくら》に、君が夢路《ゆめぢ》に入らん人こそ世にも果報なる人なれなど、袖褄《そでつま》引合ひてののしり合へるぞ笑止《せうし》なる。
 榮華の夢に昔を忘れ、細太刀の輕さに風雅の銘を打ちたる六波羅武士の腸をば一指の舞に溶《とろか》したる彼の少女の、滿座の秋波《しうは》に送られて退《まか》り出でしを此夜の宴の終《はて》として、人々思ひ思ひに退出し、中宮もやがて還御《くわんぎよ》あり。跡には春の夜の朧月、殘り惜げに欄干《おばしま》の邊《ほとり》に蛉※[#「※」は「あしへん+并」、読み「ら」、7−10]《さすら》ふも長閑《のど》けしや。
 此夜、三條大路《さんでうおほぢ》を左に、御所《
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