》きて人に面《おもて》を見らるゝを懶《ものう》げに見え給ふぞ訝《いぶか》しき。

   第二

 西八條殿《にしはちでうでん》の搖《ゆら》ぐ計りの喝采を跡にして、維盛・重景の退《まか》り出でし後に一個の少女《をとめ》こそ顯はれたれ。是ぞ此夜の舞の納めと聞えければ、人々|眸《ひとみ》を凝らして之を見れば、年齒《とし》は十六七、精好《せいがう》の緋の袴ふみしだき、柳裏《やなぎ》の五衣《いつゝぎぬ》打ち重ね、丈《たけ》にも餘る緑の黒髮|後《うしろ》にゆりかけたる樣は、舞子白拍子の媚態《しな》あるには似で、閑雅《しとやか》に※[#「※」は「くさかんむり」の下に「月+曷」、第3水準1−91−26、7−1]長《らふた》たけて見えにける。一曲《いつきよく》舞ひ納む春鶯囀《しゆんあうてん》、細きは珊瑚を碎く一雨の曲、風に靡けるさゝがにの絲輕く、太きは瀧津瀬《たきつせ》の鳴り渡る千萬の聲、落葉《おちば》の蔭《かげ》に村雨《むらさめ》の響《ひゞき》重《おも》し。綾羅《りようら》の袂ゆたかに飜《ひるがへ》るは花に休める女蝶《めてふ》の翼か、蓮歩《れんぽ》の節《ふし》急《きふ》なるは蜻蛉《かげろふ》の水に點ず
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