源には、流れも何時《いつ》か清《す》まんずるぞ。言葉の旨《むね》を忖《はか》り得しか』。重景は愧《はづか》しげに首《かうべ》を俯《ふ》し、『如何でかは』と答へしまゝ、はか/″\しく應《いらへ》せず。
 折から一人の青侍《あをざむらひ》廊下に手をつきて、『齋藤左衞門、只今御謁見を給はりたき旨願ひ候が、如何計らひ申さんや』と恐る/\申上ぐれば、小松殿、『是れへ連《つ》れ參れ』と言ふ。暫くして件の青侍に導かれ、緩端《えんばた》に平伏《へいふく》したる齋藤茂頼、齡七十に近けれども、猶ほ矍鑠《くわくしやく》として健《すこ》やかなる老武者《おいむしや》、右の鬢先より頬を掠《かす》めたる向疵《むかふきず》に、栗毛《くりげ》の琵琶股《びはもゝ》叩いて物語りし昔の武功忍ばれ、籠手《こて》摺《ずれ》に肉落ちて節《ふし》のみ高き太腕は、そも幾その人の首を切り落としけん。肩は山の如く張り、頭は雪の如く白し。『久しや左衞門』、小松殿|聲懸《こゑか》け給へば、左衞門は窪みし兩眼に涙を浮べ、『茂頼、此の老年に及び、一期の恥辱、不忠の大罪、御詫《おんわび》申さん爲め、御病體を驚かせ參らせて候』。小松殿|眉《まゆ》を顰
前へ 次へ
全135ページ中55ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
高山 樗牛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング