あ》はで果《は》つべき。花の盛りは僅に三日にして、跡の青葉《あをば》は何《いづ》れも色同じ、あでやかなる女子の色も十年はよも續かぬものぞ、老いての後に顧れば、色めづる若き時の心の我ながら解《わか》らぬほど癡《たは》けたるものなるぞ。過ちは改むるに憚る勿れとは古哲の金言、父が言葉|腑《ふ》に落ちたるか、横笛が事思ひ切りたるか。時頼、返事のなきは不承知か』。
今まで眼を閉ぢて默然《もくねん》たりし瀧口は、やうやく首《かうべ》を擡《もた》げて父が顏を見上げしが、兩眼は潤《うるほ》ひて無限の情を湛《たゝ》へ、滿面に顯せる悲哀の裡《うち》に搖《ゆる》がぬ決心を示し、徐《おもむ》ろに兩手をつきて、『一一道理ある御仰《おんおほせ》、横笛が事、只今限り刀にかけて思ひ切つて候、其の代りに時頼が又の願ひ、御聞屆《おんきゝとゞけくだ》下さるべきや』。左衞門は然《さ》さもありなんと打點頭《うちうなづ》き、『それでこそ茂頼が悴《せがれ》、早速の分別、父も安堵したるぞ、此上の願とは何事ぞ』。『今日より永のおん暇《いとま》を給はりたし』。言ひ終るや、堰止《せきと》めかねし溜涙《ためなみだ》、はら/\と流しぬ。
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