》るにても立波荒《たつなみあら》き大海《わたつみ》の下にも、人知らぬ眞珠《またま》の光あり、外《よそ》には見えぬ木影《こかげ》にも、情《なさけ》の露の宿する例《ためし》。まゝならぬ世の習はしは、善きにつけ、惡しきにつけ、人毎《ひとごと》に他《ひと》には測られぬ憂《うき》はあるものぞかし。あはれ後とも言はず今日の今、我が此思ひを其儘に、いづれいかなる由ありて、我が思ふ人の悲しみ居らざる事を誰か知るや。想へば、那《か》の氣高《けだか》き※[#「※」は「くさかんむり」の下に「月+曷」、第3水準1−91−26、19−12]《らふ》たけたる横笛を萍《うきくさ》の浮きたる艷女《たをやめ》とは僻《ひが》める我が心の誤ならんも知れず。さなり、我が心の誤ならんも知れず。鳴く蝉よりも鳴かぬ螢の身を焦すもあるに、聲なき哀れの深さに較《くら》ぶれば、仇浪《あだなみ》立てる此胸の淺瀬は物の數《かず》ならず。そもや心なき草も春に遇へば笑ひ、情《じやう》なき蟲も秋に感ずれば鳴く。血にこそ染まね、千束なす紅葉重《もみぢがさね》の燃ゆる計りの我が思ひに、薄墨の跡だに得還《えかへ》さぬ人の心の有耶無耶《ありやなしや》は、
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