ま》の中に、我《わが》ありし事、薄《すゝき》が末の露程も思ひ出ださんには、など一言《ひとこと》の哀れを返さぬ事やあるべき。思へば/\心なの横笛や。
然《さ》はさりながら、他《あだ》し人の心、我が誠もて規《はか》るべきに非ず。路傍《みちのべ》の柳は折る人の心に任《まか》せ、野路《のぢ》の花は摘む主《ぬし》常ならず、數多き女房曹司の中に、いはば萍《うきくさ》の浮世の風に任する一女子の身、今日は何れの汀に留まりて、明日《あす》は何處の岸に吹かれやせん。千束《ちづか》なす我が文は讀みも了らで捨てやられ、さそふ秋風に桐一葉の哀れを殘さざらんも知れず。況《まし》てや、あでやかなる彼れが顏《かんばせ》は、浮きたる色を愛《め》づる世の中に、そも幾その人を惱しけん。かの宵にすら、かの老女を捉へて色清げなる人の、嫉ましや、早や彼が名を尋ねしとさへ言へば、思ひを寄するもの我のみにてはなかりけり。よしや他《ひと》にはあらぬ赤心《まこと》を寄するとも、風や何處と聞き流さん。浮きたる都の艷女《たをやめ》に二つなき心盡しのかず/\は我身ながら恥かしや、アヽ心なき人に心して我のみ迷いし愚さよ。
待てしばし、然《さ
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