ゆゑ》の此つれなさと我を恨み給はんことのうたてさよ。あはれ故内府在天の靈も照覽あれ、血を吐くばかりの瀧口が胸の思ひ、聊か二十餘年の御恩に酬ゆるの寸志にて候ぞや。
松杉暗き山中なれば、傾き易き夕日の影、はや今日の春も暮れなんず。姿ばかりは墨染にして、君が行末を嶮《けは》しき山路に思ひ較《くら》べつ、溪間《たにま》の泉を閼伽桶《あかをけ》に汲取りて立ち歸る瀧口入道、庵の中を見れば、維盛卿も重景も、何處に行きしか、影もなし。扨は我が諫めを納《い》れ給ひて屋島《やしま》に歸られしか、然るにても一言の我に御|告知《しらせ》なき訝しさよ。四邊《あたり》を見※[#「※」は「えんにょう+囘」、第4水準2−12−11、104−6]《みまは》せば不圖《ふと》眼にとまる經机《きやうづくゑ》の上にある薄色の折紙、取り上げ見れば維盛卿の筆と覺しく、水莖《みづぐき》の跡|鮮《あざ》やかに走り書せる二首の和歌、
かへるべき梢はあれどいかにせん
風をいのちの身にしあなれば
濱千鳥入りにし跡をしらせねば
潮のひる間に尋ねてもみよ
哀れ、御身を落葉と觀《くわん》じ給ひて元の枝をば屋島と
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