くつれなく待遇《もてな》し參らするも、故内府が御恩の萬分の一に答へん瀧口が微哀、詮ずる處、君の御爲を思へばなり。御恨みのほどもさこそと思ひ遣《や》らるれども、今は言ひ解かん術《すべ》もなし。何事も申さず、只々屋島に歸らせ給ひ、御一門と生死を共にし給へ』。
忌まず、憚らず、涙ながらに諫むる瀧口入道。維盛卿は至極の道理に面目なげに差し俯《うつぶ》き、狩衣の御袖を絞りかねしが、言葉もなく、ツと次の室に立入り給ふ。跡見送りて瀧口は、其儘|岸破《がば》と伏して男泣きに泣き沈みぬ。
第三十三
よもすがら恩義と情の岐巷《ちまた》に立ちて、何れをそれと決《さだ》め難《かね》し瀧口が思ひ極めたる直諫に、さすがに御身の上を恥らひ給ひてや、言葉もなく一間《ひとま》に入りし維盛卿、吁々思へば君が馬前の水つぎ孰りて、大儀ぞの一聲を此上なき譽と人も思ひ我れも誇りし日もありしに、如何に末の世とは言ひながら、露忍ぶ木蔭《こかげ》もなく彷徨《さまよ》ひ給へる今の痛はしきに、快《こゝろよ》き一夜の宿も得せず、面《ま》のあたり主を恥《はぢ》しめて、忠義顏なる我はそも如何なる因果ぞや。末望みなき落人故《おちうど
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