西海の波に浮ベてこそ、天晴《あつぱれ》名門《めいもん》の最後、潔しとこそ申すべけれ。然るを君には宗族故舊を波濤の上に振捨てて、妻子の情に迷はせられ、斯く見苦しき落人に成らせ給ひしぞ心外千萬なる。明日にも屋島沒落の曉に、御一門殘らず雄々しき最後を遂《と》げ給ひけん時、君一人は如何にならせ給ふ御心に候や。若し又關東の手に捕はれ給ふ事のあらんには、君こそは妻子の愛に一門の義を捨てて、死すべき命を卑怯にも遁れ給ひしと世の口々に嘲られて、京鎌倉に立つ浮名をば君には風やいづこと聞き給はんずる御心に候や。申すも恐れある事ながら、御父重盛卿は智仁勇の三徳を具《そな》へられし古今の明器《めいき》。敵も味方も共に景慕する所なるに、君には其の正嫡と生れ給ひて、先君の譽を傷《きずつ》けん事、口惜《くちを》しくは思《おぼ》さずや。本三位の卿の擒となりて京鎌倉に恥を曝《さら》せしこと、君には口惜しう見え給ふほどならば、何とて無官の大夫が健氣《けなげ》なる討死《うちじに》を譽とは思ひ給はぬ。あはれ君、先君の御事、一門の恥辱となる由を思ひ給はば、願くは一刻も早く屋島に歸り給へ、瀧口、君を宿し參らする庵も候はず。あゝ斯
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