熟々《つら/\》思ふ樣《やう》、扨も心得ぬ六波羅武士が擧動《ふるまひ》かな、父なる人、祖父なる人は、昔知らぬ若殿原に行末短き榮耀《ええう》の夢を貪らせんとて其の膏血はよも濺《そゝ》がじ。萬一|事有《ことあ》るの曉には絲竹《いとたけ》に鍛へし腕《かひな》、白金造《しろがねづくり》の打物《うちもの》は何程の用にか立つべき。射向《いむけ》の袖を却て覆ひに捨鞭《すてむち》のみ烈しく打ちて、笑ひを敵に殘すは眼《ま》のあたり見るが如し。君の御馬前に天晴《あつぱれ》勇士の名を昭《あらは》して討死《うちじに》すべき武士《ものゝふ》が、何處に二つの命ありて、歌舞優樂の遊に荒《すさ》める所存の程こそ知られね。――弓矢の外には武士の住むべき世ありとも思はぬ一徹の時頼には、兎角|慨《なげか》はしく、苦々《にが/\》しき事のみ耳目に觸れて、平和の世の中《なか》面白からず、あはれ何處にても一戰《ひといくさ》の起れかし、いでや二十餘年の風雨に鍛へし我が技倆を顯はして、日頃我れを武骨物《ぶこつもの》と嘲りし優長武士に一泡《ひとあわ》吹かせんずと思ひけり。衆人醉へる中に獨り醒むる者は容《い》れられず、斯かる氣質なれば時
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