折柄《をりから》杉《すぎ》の妻戸《つまど》を徐ろに押し開《あ》くる音す、瀧口|首《かうべ》を擧げ、燈《ともしび》差《さ》し向けて何者と打見やれば、足助二郎重景なり。端《はし》なくは進まず、首《かうべ》を垂れて萎《しを》れ出でたる有樣は仔細ありげなり。瀧口訝しげに、『足助殿には未だ御寢ならざるや』と問へば、重景太息吐き、『瀧口殿』、聲を忍ばせて、『重景改めて御邊に謝罪せねばならぬ事あり』。『何と仰せある』。

   第三十一

 何事と眉を顰《ひそ》むる瀧口を、重景は怯《おそ》ろしげに打ち※[#「※」は「めへん+帝」、読みは「みまも」、96−6]《みまも》り、『重景、今更《いまさら》御邊《ごへん》と面合《おもてあは》する面目もなけれども、我身にして我身にあらぬ今の我れ、逃《のが》れんに道もなく、厚かましくも先程よりの體《てい》たらく、御邊《ごへん》の目には嘸や厚顏とも鐵面とも見えつらん。維盛卿の前なれば心を明《あか》さん折もなく、暫《しば》しの間《あひだ》ながら御邊の顏見る毎に胸を裂かるゝ思ひありし、そは他事にもあらず、横笛が事』。言ひつゝ瀧口が顏、竊《ぬす》むが如く見上ぐれば、默
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