まつだい》までも逃《のが》れ給はじ。斯くならん末を思ひ料《はか》らせ給ひたればこそ、故内府殿の扨こそ我に仰せ置かれしなれ。此處《こゝ》ぞ御恩の報じ處、情《なさけ》を殺し心を鬼にして、情《つれ》なき諫言を進むるも、御身の爲め御家の爲め、さては過ぎ去り給ひし父君の御爲ぞや。世に埋木《うもれぎ》の花咲く事もなかりし我れ、圖《はか》らずも御恩の萬一を報ゆるの機會に遇ひしこそ、息ある内の面目なれ。あゝ然《さ》なり、然《さ》なりと點頭《うなづ》きしが、然るにても痛はしきは維盛卿、斯かる由ありとも知り給はで、情なの者よ、變りし世に心までがと、一|圖《づ》に我を恨み給はん事の心苦《こゝろぐる》しさよ。あゝ忠義の爲めとは言ひながら、君を恨ませ、辱《はづか》しめて、仕《し》たり顏なる我はそも何の困果ぞや。
 義理と情の二岐《ふたみち》かけて、瀧口が心はとつおいつ、外には見えぬ胸の嵐に亂脈打ちて、暫時《しばし》思案に暮れ居しが、やゝありて、兩眼よりはら/\と落涙し、思はず口走《くちばし》る絞るが如き一語『オ御許《おゆるし》あれや、君』。言ひつゝ眼を閉ぢ、維盛卿の御寢間《おんねま》に向ひ岸破《がば》と打伏しぬ
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