、少し色剥げたる厚塗の立烏帽子に卯の花色の布衣を着け、黒塗の野太刀を佩きたり。放慣れぬにや、將《はた》永の徒歩《かち》に疲れしにや、二人とも弱り果てし如く、踏み締むる足に力なく青竹《あをだけ》の杖に身を持たせて、主從相扶け、喘《あへ》ぎ/\上《のぼ》り行く高野《かうや》の山路、早や夕陽も名殘を山の巓に留めて、崖《そば》の陰、森の下、恐ろしき迄に黒みたり。祕密の山に常夜の燈《ともしび》なければ、あなたの木の根、こなたの岩角《いはかど》に膝を打ち足を挫《くじ》きて、仆れんとする身を辛《やうや》く支《さゝ》へ、主從手に手を取り合ひて、顏見合す毎に彌増《いやまさ》る太息の數、春の山風身に染みて、入相《いりあひ》の鐘の音《ね》に梵缶《ぼんふう》の響き幽《かすか》なるも哀れなり。
 十歩に小休、百歩に大憩、辛《からう》じて猶ほ上り行けば、讀經の聲、振鈴の響、漸く繁くなりて、老松古杉の木立《こだち》を漏れて仄《ほのか》に見ゆる諸坊の燈《ともしび》、早や行先も遠からじと勇み勵みて行く程に、間《ま》もなく蓮生門を過ぎて主從|御影堂《みえいだう》の此方《こなた》に立止まりぬ。從者《ずさ》は近き邊《あたり》
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