の聲のみ悲し。燒け殘りたる築垣《ついがき》の蔭より、屋方《やかた》の跡を眺《なが》むれば、朱塗《しゆぬり》の中門《ちゆうもん》のみ半殘《なかばのこ》りて、門《かど》もる人もなし。嗚呼《あゝ》、被官《ひくわん》郎黨《らうたう》の日頃《ひごろ》寵《ちよう》に誇り恩を恣《ほしいまゝ》にせる者、そも幾百千人の多きぞや。思はざりき、主家《しゆか》仆《たふ》れ城地《じやうち》亡《ほろ》びて、而かも一騎の屍《かばね》を其の燒跡《やけあと》に留むる者《もの》なからんとは。げにや榮華は夢か幻《まぼろし》か、高厦《かうか》十年にして立てども一朝の煙にだも堪へず、朝夕|玉趾《ぎよくし》珠冠《しゆくわん》に容儀《ようぎ》正《たゞ》し、參仕《さんし》拜趨《はいすう》の人に册《かしづ》かれし人、今は長汀《ちやうてい》の波に漂《たゞよ》ひ、旅泊《りよはく》の月に※[#「※」は「あしへん+令」、読みは「さす」、83−9]※[#「※」は「あしへん+并」、読みは「ら」、83−9]《さすら》ひて、思寢《おもひね》に見ん夢ならでは還《かへ》り難き昔、慕うて益なし。有爲轉變《うゐてんぺん》の世の中に、只々最後の潔《いさぎよ》き
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