相國《にふだうしやうこく》が花見の宴とて、六十餘州の春を一夕《いつせき》の臺《うてな》に集めて都《みやこ》西八條の邸宅。君ならでは人にして人に非ずと唱《うた》はれし一門の公達《きんだち》、宗徒《むねと》の人々は言ふも更《さら》なり、華冑攝※[#「※」は「たけかんむり+録」、読みは「ろく」、第3水準1−89−79、3−6]《くわちゆうせつろく》の子弟《してい》の、苟も武門の蔭を覆ひに當世の榮華に誇らんずる輩《やから》は、今日《けふ》を晴《はれ》にと裝飾《よそほ》ひて綺羅星《きらほし》の如く連《つらな》りたる有樣、燦然《さんぜん》として眩《まばゆ》き許《ばか》り、さしも善美を盡せる虹梁鴛瓦《こうりやうゑんぐわ》の砌《いしだゝみ》も影薄《かげうす》げにぞ見えし。あはれ此程《このほど》までは殿上《てんじやう》の交《まじはり》をだに嫌はれし人の子、家の族《やから》、今は紫緋紋綾《しひもんりよう》に禁色《きんじき》を猥《みだり》にして、をさ/\傍若無人の振舞《ふるまひ》あるを見ても、眉を顰《ひそ》むる人だに絶えてなく、夫れさへあるに衣袍《いはう》の紋色《もんしよく》、烏帽子のため樣《やう》まで萬六
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