波羅樣《よろづろくはらやう》をまねびて時知り顏なる、世は愈々平家の世と覺えたり。
見渡せば正面に唐錦《からにしき》の茵《しとね》を敷ける上に、沈香《ぢんかう》の脇息《けふそく》に身を持たせ、解脱同相《げだつどうさう》の三衣《さんえ》の下《した》に天魔波旬《てんまはじゆん》の慾情を去りやらず、一門の榮華を三世の命《いのち》とせる入道清盛、さても鷹揚《おうやう》に坐せる其の傍には、嫡子《ちやくし》小松の内大臣重盛卿、次男中納言宗盛、三位中將|知盛《とももり》を初めとして、同族の公卿十餘人、殿上三十餘人、其他、衞府諸司數十人、平家の一族を擧げて世には又人なくぞ見られける。時の帝《みかど》の中宮《ちゆうぐう》、後に建禮門院と申せしは、入道が第四の女《むすめ》なりしかば、此夜の盛宴に漏れ給はず、册《かしづ》ける女房曹司《にようばうざうし》は皆々晴の衣裳に奇羅を競ひ、六宮《りくきゆう》の粉黛《ふんたい》何れ劣らず粧《よそほひ》を凝《こ》らして、花にはあらで得ならぬ匂ひ、そよ吹く風毎《かぜごと》に素袍《すはう》の袖を掠《かす》むれば、末座に竝《な》み居る若侍等《わかざむらひたち》の亂れもせぬ衣髮を
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