横《よこた》はれるを見、猛然として悟り、喟然として嘆ず、吁、天下、心を傷《いた》ましむる斯の如きものあるか。借問《しやもん》す、是れ誰《た》が家の墳ぞ、弔祭永く至らず、墓塔空しく雨露の爲に朽つ。想ふに其の生れて世に在るや、沖天の雄志躍々として禁《た》ふる能はず、天下を擧げて之に與ふるも心《こゝろ》慊焉たらざりしものも、一旦|魂《こん》絶えて身異物とならば、苔塔墓陰、盈尺の地を守つて寂然として聲なし、人生の空然たる、哀しむべきの至ならずや。後人|碑《ひ》を建て之に銘するは其心|素《もと》より其の英名を不朽に傳へんとするにあり。然れども星遷り世變り、之が洒掃の勞を取るの人なく、雨雪之れを碎き、風露之れを破り、今や塊然として土芥に委するも人絶えて之を顧みず、先人の功名得て而して傳ふべきなし。思ひ一たび此に至れば、彼の廣大なる墓碑を立てゝ名の不朽を願ふものは何等の痴愚ぞや。嗚呼劫火烱然として一たび輝けば、大千|旦《あした》に壞《ゑ》す、天地又何の常か之れあらん、想ふに彼の功業を竹帛に留めて盛名の※[#「窮」の「弓」に代えて「呂」、242−下−2]りなきを望むものは、其の痴之れに等しきを得んや。
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