かくまでに穿たれしや。是の平淡の資材を驅りて、此の幽妙の人心を曲《つ》くせるは、たしかに女史が「十三夜」以上の作と云ふべし。正太も、三五郎も、信如も、各自の性格に於て洵によく其一致を保てども、かへす/″\も面白きは美登利なり。吾等つら/\是の作を讀みしとき、人情の自からなる美はしき、人生の本末の果敢なさ、くさ/″\の思ひに堪へざりき。見よや女子の勢力、と言はぬばかりの春秋知らぬ五丁町の賑ひに、美登利の眼に女郎といふもの、さのみ賤しき勤めとも思はねば、姉の全盛を父母への孝養と羨ましく、お職を通す姉が身の憂いのつらひの數も知らねば、廓のことよろづ面白く聞きなさるゝ年はやうやう數への十四、習は性を移す世に、是の末如何の運命に到るべき。玉の如く清き少女の初戀は、あはれや露の如く脆く消えて、恐ろしき淺ましき前途の、蛇の口を開いて待ち居るとも知らで、あへなき夢を忍ぶらむ美登利の身の哀れさよ。生れにはなど變りなき人の種。十三四の友どちは、げに無邪氣なる天人の群れとも見るべくも、年經ち、心長けては、濁り江の底なき水に交りて、本の雫の珠の影だにあらず。たけくらべ、あはれ床しく忍ばるゝ吾れ人の昔かな。一葉
前へ 次へ
全5ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
高山 樗牛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング