美登利。お侠《きやん》の本性は瀧つ瀬の流に似て、心の底に停るもの無しと見えしはあだなれや。扨も是の道だけは思の外の美登利。浮名を唄はるゝまでにも無き人の、さりとては無情《つれな》き仕打、會へば背き、言へば答へぬ意地惡るは、友達と思はずば口を利《き》くも要らぬ事と、少し癪にさはりて、摺れ違うても物言はぬ中はホンの表面《うはべ》のいさゝ川、底の流は人知れず湧き立つまでの胸の思を、忘るゝとには無きふた月、三月《みつき》。秋の夜雨の檐下にしほらしき人の後影見るとはなしに、何時までも何時までも見送りし心の中は、やがて胸倉捉へてほざき散らさむずお侠の本性もあはれや。今は紅入の友禪に赤き心を見する可憐の少女、是より後は中よき友とも遊ばず、衣ひきかづきて一と間に籠る古風の振舞、生れ變りたらむ樣の美登利は、有りし意地を其まゝ封じこめて、こゝしばらくの怪しの態を誰が何時言告ぐるでも無く、格子門の外にかゝる水仙の作り花は、龍華寺の信如が、なにがしの學校に袖の色變へぬべき當日のしるしなり、とはあはれ/\。たけくらべ、あへなく過ぎし昔の夢を思ひやるだに、いと床しや。
一葉女史いかなる妙手あれば、是の間の情理を
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