一葉女史の「たけくらべ」を讀みて
高山樗牛

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)辛《やうや》く

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)指《サス》ヶ|谷《ヤ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から1字上げ](明治二十九年五月)
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 本郷臺を指《サス》ヶ|谷《ヤ》かけて下りける時、丸山新町と云へるを通りたることありしが、一葉女史がかゝる町の中に住まむとは、告ぐる人三たりありて吾等|辛《やうや》く首肯《うなづ》きぬ。やがて「濁り江」を讀み、「十三夜」を讀み、「わかれみち」を讀みもてゆく中に、先の「丸山新町」を思ひ出して、一葉女史をたゞ人ならず驚きぬ。是の時「めざまし草」の鴎外と、なにがし等との間に、詩人と閲歴の爭ありしが、吾等は耳をば傾けざりき。
 一葉女史の非凡なることを、われ等「たけくらべ」を讀みてますます確めぬ。丸山新町に住むことに於て非凡なることも、又小説家として其の手腕の非凡なることも。
 まことや「たけくらべ」の一篇は、たしかに女史が傑作中の一なるべき也。
 吾等の是の篇を推す所以の一は、其の女主
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