です。
それから、今日では鋳造の先生で原安民氏が、彫刻の手ほどきは私の宅にてされました。氏は大磯の人、その頃は川崎伊三郎といいました。
もう一人、俵光石という房州|北条《ほうじょう》の石屋さんがあります。この人が宅へ参ったのはちょっと話がある。
谷中茶屋町の私の宅はお隣りが石屋でした。私の宅にて中二階の仕事場を建てましたので、二階から仕事場が手に取るように見え、また石屋の方からこちらの仕事をしているのも見えました。一方は木、一方は石の相違はあっても同じく物の形を彫って仕事をしているのには違いはありません。もっとも石屋の方では主《おも》に石塔のようなものを彫っているが、時には獅子《しし》、狐、どうかすると観音などを彫っていることもある。こっちでは動物流行の折からで、象、虎、猿、などいうものを彫っている。石も材料、木も材料、材料は違うけれども双方ともに彫刻師である……にもかかわらず、石屋さんの仕事場の方ではこっちの仕事をしているのを振り向きもせず、さらに知らない顔をしている。てんで無感覚であります。これを見て私は思ったことですが、いかに何んでも、お互いに物の形を彫ることを職業として
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