雲氏は実父、養父の気性を受けてなかなか人の世話をよく致します。また信仰者で仏典にも委《くわ》しい。
 さて、その次に来た弟子は日本橋馬喰町の裏町に玉村という餅菓子屋がありましたが、その直ぐ隣りの煎餅屋《せんべいや》の悴《せがれ》長次郎という若者でした。この人の来た時分は、前に話しました三河屋の隠居と私が懇意になり、三河屋の仕事をして多少|生計《くらし》が楽になった時でありましたから、大変家の貧乏だった煎餅屋の悴を弟子に取るだけのことも出来ました訳……長次郎は至って気質《きだて》の温《おとな》しい男で、今この席にいる光太郎を抱いたり背負《おぶ》ったりして能《よ》く佐竹ッ原へ見物に行ったものです(光太郎は打毬《だきゅう》が好きで長次郎が仕事をしていても、原へ行こう行こうといって能《よ》くせがんだものです)。父は島田という人で、茶人《ちゃじん》でした。大変|生計《くらし》に困っているらしいので、気の毒に思い、石川光明さんその他三、四の友達を誘い、お茶の稽古を初めることを思いつき、石川さんの宅や、私の宅と交《かわ》る交《がわ》る四、五人会合し、この島田氏を宗匠にして稽古をしました。その頃のこと
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