てようやく一家を支《ささ》えて行く位の有様であるから、誰も進んで木彫りをやろうというものがありません。私自身が弟子を取りたいと考えても、弟子になりてがないという有様である。それは無理ならぬ事で、木彫りをやって見た処で、世間に通用しない仕事と見做《みな》されていることだから、そういう迂遠《うえん》な道へわざわざ師匠取りをして這入《はい》って来ようという人のないのは、その当時としてはまことに当然のことであったのでした。

 それはそうとして、とにかく私は弟子を取って一人でも木彫りの方の人を殖やす必要を感じている。でその弟子取りを実行しようと思うのですが、それがまた容易には実行出来ないのであります。……というのは、弟子を置けば雑用が掛かります。自分の生計《くらし》向きは困難の最中……まず何より経済の方を考えなければならない。弟子を置いても弟子に食べさせるものもなく、また自分たちも食べて行けないとあっては、何んとも話が初まらぬわけでありますから――が、まあ、食べさせる位のことはどうやら出来る。自分たちが三杯のものを二杯にして、一杯ひかえたとしても、弟子一人位の食べることは出来る。しかし、暑さ寒
前へ 次へ
全4ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
高村 光雲 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング