生計上に困ることは自然の理で、ようやくその日を糊《のり》する位のもので、さらに他を顧みる隙《ひま》もなかったことでありました。
 木彫りの世界はこういうあわれむべき有様でありましたので、私は、どうかしてこの衰頽《すいたい》の状態を輓回《ばんかい》したいものだと思い立ちました。ついては、何事によらず、一つの衰えたものを旺《さか》んにするにはまず戦わねばならぬ。戦争をするとすると兵隊が入ります。で、その兵隊を作らねばならないとまず差し当ってこう考えました。すなわち木彫界の人を作らなければならない。人の数が多くなればしたがって勢力が着いて来る。そうすれば世に行われると、まあ、こういう見当をつけたのであります。そこで、どういう手段でその人を殖《ふ》やす方法を取るべきであるか……ということになるのですが、どうといって、弟子でも置いて段々と丹精して、まず自分から手塩《てしお》に掛けて作るよりほかはない。……と気の長い話でありますが、こう考えるよりほかに道もありませんでした。
 ところが、木彫りは今も申す如く、衰えていて、私自身がその当時現に困窮の中に立ち、終日|孜々汲々《ししきゅうきゅう》としてい
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