はそのかやぶき屋根の家へ平尾さんが先に立って這入りました。
はてな。この家がそうなのかしらと思って妙な気がしました。
かやぶき家根の門を這入ると、右手は梅林、左手が孟宗藪《もうそうやぶ》。折から秋のことで庭は紅葉し、落葉が飛石などを埋《うず》めている。その中に茅葺屋根が小さく見え、いかにも山の中に隠士でも棲《す》んでいそうな処です。上へあがってからも、石川さんと来たことがあるので、見覚えがあり、間取りなども悪くなく、甚《はなは》だ気に入りました。
「この家なら私は気に入りました」
私は平尾さんにこういいますと、
「妙な家が好きですね。随分引っ込み過ぎて不便なことじゃありませんか。……しかし、なるほど、あなたの好きそうな家ですね。それに此所なら私の家へ出入りをしている医師の兄の藤井という人の持ち家だから、取引にも面倒がなくて結構、では此所に決めましょう」ということで早速話が決まりました。
地所が二百六十坪ほど、家ぐるみ、七百十五円で登記が済みました。
この家は藤井という人が悴《せがれ》同様にしている人のために住宅として買って置いた家であったが、その人が洋行をしているので、一時
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