とだろう。それに、もう、あの人も相当年輩、世間的の地位も立派にあるのに、今日といえども、まだ微々たる借家|住居《ずまい》をしているようでは気の毒だ。あの分では何時《いつ》までたっても自分の家持ちになることは出来まい。どうかまず家持ちにして上げたい。何事も居所が確《しっ》かり定まってのことだから……とこういってあなたのことを心配していられます。平尾さんの気では一日も早くあなたに一軒の家を持たせたいという望みなのですよ。あなたはどう思いますか。一つ考えて見て下さい」
ということ。しかし、まだその頃は、私も平尾氏の噂《うわさ》こそは後藤君からちっとは聞いているようなものの、まだ一面識もないことで、先方《むこう》がどういう気でそういうことをいっておられるのか見当も附かず……多分、私が永年の間に多少とも貯蓄などをしていて、いくらか土台が出来ているだろうからその上へ幾分のたし前でもして補助して、そうして一軒の家持ちにでもして上げたいというような心持か、御好意は忝《かたじけな》いが、今日まで何事も自力一方でやって来た自分、まあ、自分は自分の力をたよりにするにしくはないと、別に乗る気もなしそのままにな
前へ 次へ
全10ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
高村 光雲 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング