十五円位のものであろうと私は見ました。先方で金額の半金を入れてもらわなければ仕事に取り掛かれないといいますから、二十円の手金《てきん》を打って、五月までにはきっと間違いなく花川戸の河岸へ着けてくれるように約束しました。
 しかし、この約束はどうも当てにも何もならぬと思いました。前金の受け取りを取っても相手は山猿同様……まるで治外法権のような山村のことで、当の相手が人別《にんべつ》にもないような男である。その他のものでも、この近在に住んでいるものは杣《そま》で、半分ばくち打ち見たような人間ばかり……こういう人を相手に約束をして、五月という日限をした処で、当てにするものが無理だという位のものですから、私たちはいかにも便《たよ》りなく思いましたが、もう仕掛けた仕事ですから、今さら手の引きようもなく、五月までは待って見る気でこの山を降りて東京へ帰って来ました。

 案の条、五月が来ても何んの音沙汰《おとさた》もない。
「高村さん、発光路《ほっこうじ》の一件はどうなりましたね」
 後藤君は五月の中頃《なかば》になって私に聞きました。
「何んの音沙汰もありません。相手があれですから、当てにはなりま
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