ておりました。しかし何んのことかさらに分らんのでありました。翌日学校へ出ると、石川光明氏もお差紙が参ったということで、
「高村さん、あれは何んでしょう。どういう御用なのでしょう」という話です。私は石川氏に聞いて見ようと思っていたところへ、こう先からいわれたので、やはり石川さんも何んのことだか知らないと見える。氏は我々よりも先へ世の中へ出て交際の範囲も広く、世間的智識も広いのに、今の話で見ると、この事の当りが附かないものと見えるなと思っていると、橋本雅邦先生も食堂へ見えて、
「あなた方のところへもお呼び出しがあったのですか。私の許《もと》へもありました。あれはなんでしょう」とやはり同じことをいっている。
 三人は一緒になって、さて何んのことだろうなど話し合いましたが、結局、宮内省で絵画並びに彫刻でもお買い上げになるので、我々にその鑑定をしろと仰せ附けられるのであろう。というような推測に一致しまして、とうとう「それに違いありますまい」と決めてしまいました。
 こういうわけであったから、出頭の当日まで実際何んのことであるか、さらに容子が分らないのであった。
 さて宮内省へ出頭すると、お呼び出
前へ 次へ
全9ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
高村 光雲 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング